年に一回の贅沢だからと、街外れにできたばかりの、郊外型の大きな、喫茶店だろうかレストランだろうかに、妻に誘われて連れていかれたのは、考えてみたらもう1年も前のことになる。
パンケーキのおいしい店だった記憶がある。かなり大きなパンケーキを出す店だった。
「このお店は並ばないと食べれないんだから」と得意げに面倒なことを妻が言った記憶がある。実際行ってみたら、11時で行列ができていた。閉口しながらも、文句を言わずに列に連なった。
店内は某ハンバーグ店みたいな粗野な作りで、それでいてこじんまりとしている。どこかテーマパーク染みた装丁のお店だった。
ジョッキみたいな大きなミルクコーヒーを出すお店で、僕は正直を言うと、コーヒー牛乳はあまり得意ではなかったから少しだけ困ったものだった。
得意ではないというのは、すぐにお腹を悪くしてしまうのである。悪くするとトイレに駆け込むこともある。牛乳があれなのか、コーヒーのカフェインがよくないのか一寸わからないが、事実、あまり得意ではないのだった。
頼まなければいいのだが、みんなが呑んでいると不思議なことに、うまそうにみえて仕方がない。当然、頼みました。お腹のことはすっかり忘れてしまって。
帰り際、おいしかったねと大きなパンケーキを二人で平らげて、満足した妻が言った。そうだねと相槌を打つ。その帰り道に、ミルクコーヒーはたたらなかった。ただ、なんとなく幸せだなという気持ちが事実として残った。
ミルクが悪くなければ、コーヒーも悪くない。きっと場所と空気と気分が悪い時が、悪い時。わかったようなわからないようなことを言ったあの日は、すでに去年の初夏のことになっている。
パンケーキと妻の笑顔を思い出す。そして、大きなジョッキに入ったミルクコーヒーも、いつもと同じ味だった気がするけれども。
終わり