犬の記憶

夢を見ている感覚の中

今では遠い記憶の街

見覚えの有る笑顔が通りすぎる

破顔とは言い難い

しかし  見たことの有る気色

学校の前を流れる小川

道なりに歩いて  最初の信号は左へ

やがて顔に守られている感覚は遠退き

やはり見覚えの有る家屋に足を踏み込む

そこは泥沼の床に  二階に人の気配

そうだ僕はここに住んでいた

そんなはずの無い記憶を頼りにして

誰かに見られた気がして振り返る

壁の小さな隙間に  子犬の横顔

「あ、ココ!」叫んだのは僕  時を置かずに

女性の泣き声が聞こえ  刹那に

目が覚めていた

 

 

前妻の実家にはココという犬を飼っていたことを思い出します。今その時まで忘れていたことでした。ココと僕は仲が良かった。

目覚めてからしばらく、呆然としていました。ベットの中には丸くなるように、9が眠っています。お前が繋いだの?と話しかけても9は、すやすやと。

決して若くなく、それでも元気そうにお腹を見せて甘えていた姿。皆に愛されていた、ココ。

もう会うことは無いとはわかっていながら、せめて遠くから見ることができたらなんて、無理なことを願うのです。